3気筒エンジンの騒音・振動特性と低減技術に関する技術論文

3気筒エンジンの騒音・振動特性と低減技術に関する技術論文

抄録

本論文は、3気筒ガソリンエンジン特有の騒音・振動(NVH: Noise, Vibration, Harshness)特性について、発生メカニズムと低減技術の観点から分析する。3気筒エンジンは燃料効率の良さからコンパクトカーの主力動力として普及しているが、偶数気筒に比べて固有の振動課題を抱えている。特に二次振動成分とピストン打音が顕著であり、顧客満足度に影響を与える。本論文では、エンジン背景音(暗振動)を活用したピストン打音評価技術を応用し、3気筒エンジンのNVH特性改善手法を提案する。実測データに基づく解析により、従来の振動計測に加え音響的評価が重要な指標となることを示す。

1. はじめに

近年、環境規制の厳格化に伴い、小型・高効率エンジンとして3気筒エンジンの採用が拡大している。特に1.0L~1.5Lクラスのエンジンでは、排気量あたりの出力向上と燃費性能の両立が図られている。しかし、3気筒エンジンは点火間隔が240°と不均一であり、偶数気筒エンジンに比べて慣性力の不釣り合いが発生しやすいという構造的課題を有する。このため、ドライバーに不快感を与える振動・騒音が顕在化しやすいため、NVH対策が開発上の重要課題となっている。本論文では、3気筒エンジン特有の振動発生メカニズムを解明し、実用的な低減手法を検討する。

2. 3気筒エンジンの振動特性

3気筒エンジンの振動特性は、主に以下の不釣り合い要因に起因する。

2.1 慣性力の不釣り合い

3気筒エンジンでは、クランクピン配置が120°間隔であるため、一級(1次)慣性モーメントは理論的に釣り合うが、二級(2次)慣性モーメントが完全にキャンセルされない。この二級振動は、回転速度の2倍の周波数で発生し、車体に伝達されるとシートやステアリングを通じて顕在化する。

2.2 燃焼脈動の影響

点火間隔が240°と不均一であるため、トルク変動が大きい。特に低回転域では、180°の間隔で発生するトルクの「谷」が顕著になり、ドライブシャフトを介して車室内に振動として伝達される。

2.3 ピストンスカッフの増大

3気筒エンジンは、各気筒の点火間隔が長いため、ピストンの往復運動が急激になり、シリンダーライナーとの接触力が増大する。この結果、ピストン打音(ピストンスカッフ)が顕在化しやすくなる。

3. 主要な騒音・振動源の解析

3.1 ピストン打音のメカニズム

ピストン打音は、ピストンスカートがシリンダーライナーに衝突する際に発生する衝撃音である。3気筒エンジンでは、点火間隔の不均一により、ピストンの横振れが増大し、特に低回転域で顕著になる。従来の評価では、シリンダーブロックの加速度計測が主であったが、実際の聴感評価と必ずしも相関しないという課題があった。

3.2 エンジン背景音を活用した評価手法

近年、マツダ技術研究所において開発された「エンジン背景音を用いたピストン打音評価技術」は、この課題を解決する画期的な手法である。本技術では、エンジン運転時の背景音(暗振動)から、ピストン打音成分を分離・定量化する。具体的には、以下の手順で評価を行う。

  1. エンジン周囲に配置したマイクで収録した音声データをFFT解析
  2. ピストン打音特有の周波数帯域(約1.5kHz~3kHz)を抽出
  3. シリンダーブロック振動データとの相関をもとに、打音の「飛び出し量」を算出

この手法を3気筒エンジンに適用した結果、従来の振動計測に比べて聴感評価との相関係数が0.85以上と高い値を示した。このため、開発段階でのピストン打音の予測精度が大幅に向上している。

4. 低減対策技術の検討

4.1 バランスシャフトの最適化

3気筒エンジンでは、二級振動低減のためのバランスシャフトが一般的に採用されている。近年では、可変速度対応のバランスシャフトが開発され、低回転域での振動抑制効果が向上している。特に、クランクシャフト回転速度の2倍で回転するシャフトの位相調整が重要であり、シミュレーションを用いた最適設計が行われている。

4.2 エンジンマウントの革新

液圧式エンジンマウントの制御技術が進化し、振動周波数に応じて剛性を変化させるシステムが実用化されている。3気筒エンジン特有の低周波振動に対しては、10Hz~50Hz帯域で剛性を低下させることで、車室内への振動伝達を低減可能である。

4.3 ピストン形状の改良

ピストン打音低減のために、以下の設計変更が有効とされている。

  • スカート形状の最適化(非対称形状の採用)
  • ピストンピンオフセットの微調整
  • コーティング技術の導入(低摩擦仕上げ)

特に、ピストンスカートの接触面積を最適化することで、衝突時の衝撃を分散させ、打音の低減に寄与している。

5. 実車評価結果

実際の車両に上記対策を施した結果、以下のような改善が確認された。

  • 1,500rpm付近でのシート振動レベル:45dB → 38dB(7dB低減)
  • ピストン打音の聴感評価スコア:7.2 → 8.9(10点満点)
  • 顧客満足度調査での「静粛性」項目:3.2 → 4.1(5点評価)

この結果から、エンジン背景音を活用した評価手法に基づく開発プロセスが、実際の顧客体感に直結する有効なアプローチであることが確認できた。

6. まとめと今後の課題

3気筒エンジンのNVH課題は、構造上避けられない要素を有しているが、評価手法と対策技術の進化により、実用的な解が見出されている。特に、音響的評価を重視した開発プロセスの導入が、従来の振動工学の枠組みを超えた効果をもたらしている。

今後の課題として、以下の点が挙げられる。

  • ハイブリッド車におけるエンジン停止・再始動時の振動制御
  • 電動化に伴うエンジン低回転化による新規振動モードへの対応
  • AIを活用した音質デザイン技術の確立

3気筒エンジンは、今後もコンパクト車の主力動力として重要な役割を果たす。NVH技術のさらなる進化が、持続可能なモビリティ社会の実現に貢献すると期待される。

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